桜酵母ビール 【桜の木の恵み】 [日本のクラフトビール]
今日は秋田県の湖畔の杜ビールの「桜酵母ビール」でございます
いや~「桜酵母」とはなんとも春を先取りしたネーミングぢゃありませんか。その名の通り、桜の木に住んでいた酵母を使って醸造したビールです では普通のビールと何が違うのか、なんて難しい話はまあ後ほど。興味あれば読んでください~。
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いただきま~す
原材料は麦芽とホップのみ。桜的なるものはありません。それでも香りにはなぜかほんのり甘い香り。これはホップの香りなのか酵母由来のものなのかはちとわかりません。
呑む。いや~実に複雑。やわらかい甘さの中に抹茶のような渋みもキラリ。後味にはやはり桜のような香り。桜の花のきらびやかなイメージというよりは、幹や土まで含めた樹全体の桜のイメージが投影されている、って感じかなあ。華やかさ、良い意味での土臭さ、力強さ、いろんな要素を感じます
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では何故こんな複雑な香味のビールができるのか。たっぷりご説明いたします。猫背的発酵講座のはじまり~。あっ、行かないで・・・
世にある酒と呼ばれるものには必ず含まれるもの、もちろんアルコールです。このアルコールってのはどんな酒であっても酵母が作りだすものです。では、酵母は何を食べて何を出すのか。図解いたします。
ちょっと工夫してみました 真ん中の水色のがビール酵母、S・セレビシエです。逆に見づらいかなあ・・・
ビールに話を限定します。ビールのアルコールは麦芽の中に含まれる糖を酵母が食べて出すもの、極めて単純に言ってしまえば、酵母の排泄物なのです。
われわれヒトだって、食えば出ます。いろんなものが それは酵母だって同じ。ヒトにたとえて言えばこんな感じでしょうね。
アルコール = 酵母の小便
炭酸ガス = 酵母のオナラ
香気成分 = 酵母のゲップ
食事中の皆さん、失礼いたしましたm(_ _)m ビール呑んでる真っ最中の皆さん、本当に失礼しましたm(_ _)mm(_ _)m
あくまでもたとえですよ、たとえ。んでもこうとらえていただけると発酵の過程がすごくわかりやすくなると思います。
それにしても酵母の排泄物にメロメロにさせられているなんて、ヒトなんてかわいいもんですな。ヒトが全生物の頂点であるなんてちゃんちゃらおかしい話ですよ。末端の排泄物にこれまでどれだけのヒトがやられてきたことか笑 ある意味ヒトは酵母の奴隷なのかもしれませんね。んでもこんな幸せな奴隷ならいつまででもやってたいなあ
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話を戻します。ビールを醸してくれる酵母には全部で3つの種類があります。
上からラガー酵母、エール酵母、自然酵母、です。
ちなみにもやしもんキャラは真ん中のS・セレビシエ以外の2つは単なる助っ人です。上のはS・ソーエ(味噌や醤油を醸す)、下のはC・トリコイデス(黒カビ)でビール醸造では何の仕事もしません笑。誤解なさらぬように
すんごい細かい話ですが、ラガー酵母とエール酵母は昔は全く別の種類だと考えられていたのですが、最近の研究でどちらもS・セレビシエに属するものだということが判明しました。ちなみにSは「サッカロマイセス」の略で、「糖を食べるキノコ」の意味です。
この3つの酵母の違い、それは「アルコールと炭酸ガス以外の副産物」です。上の図で「香気成分(エステル)」とありますが、これが副産物の代表です。これ以外にもいろいろ副産物を生成しているのですが、これが決定的に異なる。その違いがビールの多種多様な味わいにつながっているのです。
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ラガー酵母はどちらかと言うとおとなしい、おしとやかな酵母です。副産物をあまり出さない、すっきりしたビールを醸すのが得意。現在日本を席巻しているピルスナーや、デュンケル、シュバルツといった黒ビールはこのラガー酵母が醸すものです。
エール酵母は性格の荒々しい、陽気な奴です。発酵するときもボコボコと盛大にガスを出し、まるで沸騰しているかのような激しさ。そんなエール酵母は香気成分も副産物もたっぷり出してくれます。ビールファンを魅了してやまないフルーティな香り、複雑なフレーバーはこのエール酵母がもたらすものです ペールエールなどの「○○エール」という名前のビールやスタウトはエール酵母の担当です。
またまた脱線しますが、日本でおなじみの某メーカーの「●番搾りスタウト」ですが、あれは厳密にはスタウトではありません。だってエール酵母使ってませんから。正しくはシュバルツかデュンケルに分類されるべきものです。
なのに、日本の妙な法律(詳細は端折ります)のせいであれを「スタウト」と表示してよい、という規定がされているのです。こういう小さなウソを積み重ねてきた結果、世界でも独特のビール文化が日本にはできてしまったのでしょうね。悲しいことです
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ようやく話が桜酵母に戻ります。今回のビールを醸してくれた「桜酵母」ですが、これは3番目の「自然酵母」にあたります。簡単に言えば、自然界に存在している酵母、ということです。「え、じゃあラガー酵母とエール酵母は自然界に存在していないの」という質問、いい質問ですね~。
もちろんラガー酵母もエール酵母ももともとは自然界に存在していたものです。が、ヒトの中にも真面目な働き者も怠け者も犯罪者もいるように、酵母にも性質の違いがあるのです。つまり、自然界に存在している酵母をそのまま醸造に使ってしまうと、どんなビールが出来上がるかわからない。働き者酵母が多ければんまいビールになるけど、怠け者や犯罪者の楽園だったりしたらとんでもないビールになってしまうわけです
そこで現在では研究所で働き者酵母だけを選び出し、育てて醸造に用いるという「純粋培養」の方法が用いられています。ちなみにこの純粋培養に初めて成功したのは1883年、デンマークのカールスバーグ研究所です。そう、おなじみのあのビールですよ。
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ところが世界には今でも「自然酵母をそのまま使ってビールを作ってしまえ」というビールがわずかながら残っています。
代表例がベルギーの「ランビック」と呼ばれるビールです。このビールはなんと、その醸造所に棲みついている酵母、日本酒で言うところの「蔵つき酵母」にビールを造らせるという大変特殊な醸造法で醸されています。棲みついている酵母と一口に言っても、そりゃまあいろんな性格の酵母がいるわけです。だからランビックの香味は実に複雑 まあ機会あったら呑んでみてくださいよ。最初はおったまげると思います。
この桜酵母は桜の木に棲みついていた酵母を採取し、おそらくそれを研究所で培養してからビールを作らせたものと思われます。だからランビックとは違って、ある程度の酵母の選抜は行われているはずです。それでもやはりラガーやエールとは明らかに違う複雑なフレーバー。自然界での微生物達の営みを感じてください
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